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ドクターから健康アドバイス

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

掲載3

からだの防御システム(3)

前回の予告どおり「免疫現象」についてお話していくわけですが、これはいわゆる「森と樹木」あるいは「海水面と海水内の生き物」の関係を説明するように入っていく必要がありましょう。

はじめから樹の名前や魚の名前の説明からはじめても森や海の全体像は見えてきません。細かすぎて何のことかさっぱり分からず、やっぱり免疫学は難しいと思われてしまうでしょう。そこで免疫現象として以下のようなたとえ話をしましょう。

モンゴルの馬ふん

「エーッツ」とびっくりされないでください。モンゴルでは花粉症やアトピ-で悩んでいる人々が少ないと聞きます。確かに日本のように杉の植林が多いということはないでしょう。しかし草原に特有のさまざまな即時型アレルギーの原因(アレルゲン)はあるはずです。

また住環境としての「パオ」内部にはさまざまなダニなどの共生物(アレルゲン)がいるはずです。ある科学的な研究によると、モンゴル草原で飼育されてい る馬の排泄物の乾燥したものが空気中をただよって鼻粘膜あるいは口の粘膜から異物として体内に入る環境が、モンゴルの子供たちの免疫バランスを改善させて 特定のアレルゲンに反応させなくするということです。

青っ洟と即時型アレルギー

上述と同じような環境のことです。筆者の若いころつまり半世紀以上前のころ多くの小学生は青っ洟(青い鼻汁)を垂らして、アカギレやシモヤケもなんのそ ので野原を駆けずり回って遊んでいました。また、有機肥料(人糞)による農業であったせいで、寄生虫に悩まされていました。検便や駆虫剤(サントニン)な どが妙に懐かしく思い出されます。

そのころは、今の小学生のような即時型アレルギーで悩んでいる子供は少なかったように思います。実際、このような現象に関する研究結果を目にします。どうしてそうなるのかという仮説があり、「衛生仮説」(京都大学白川先生)といわれています。

このような現象を理解するには免疫学的なからだのしくみ、つまり免疫バランスのからくりを「樹木のレベル」で説明する必要がありますので、今後のシリーズを楽しみにして下さい。

漆職人と漆かぶれ予防

野原を散策したり、山に登ったりなど、アウトドアー派に怖いものとして「漆かぶれ」があります。一方、日本の伝統の一つである漆塗り工芸や漆器の美と 「漆かぶれ」がどうしても結びつかないのです。「漆塗り」は世界に誇るべき伝統工芸であり、漆は英語ではまさにjapaneseです。

私の年来の疑問は、漆塗り職人はどうしてかぶれないのかということでした。医学的、免疫学的には「アレルゲンによる脱感作」という治療法があります。筆者が聞き知ったことでは、漆塗りの職人さんになる前に漆を少しずつ食べるそうです。

消化管の壁には免疫反応に関係する細胞たちが無数に分布しており、消化管という外界のさまざまな物質といわば「意見交換」をしています。とくに「経口免 疫寛容」というしくみが働いているのでしょう。これも「樹木のレベル」になるので、今後のシリーズを楽しみにして下さい。

喘息とストレス

気管支喘息の患者さんの多くは「息苦しさは小さい時にひどかったけれど、今は薬も使わずに治っています」とよくおっしゃいます。しかし、そのうちの幾人 の患者さんは「でも会社の人間関係で悩んだときやひどい風邪を引いたときに、子供の時のこわかった発作を思い出します」と。実際に喘息発作の一歩手前なの だと筆者は考えます。

免疫反応に関わっている細胞たちのはたらきは、「樹木のレベル」では互いに激しくせめぎあっているのです。しかし、「森のレベル」では一見何もないかの ように静まっているだけで、爆発寸前でいるはずです。このようなしくみを「森のレベル」の「免疫バランス」としてとらえると、大変わかりやすくなるでしょ う。前述の患者のエピソードは、現在使用されている看護学の教科書の「症例検討」に選ばれているのです。

パブロフの条件反射

筆者が共同研究をしていたカナダのマクマスター大学分子医学部門からの研究報告をご紹介しましょう。実験動物に即時型アレルギーを起こさせるようにしておきます。

発作を起こさせる物質(アレルゲン)を動物に投与すると同時に目に光刺激あるいは耳からの音刺激をくりかえしておきます。しばらくこの実験をくりかえし た後に、アレルゲン投与をせずに光刺激か音刺激だけをくわえます。すると動物のからだの中で即時型アレルギーとまったく同じような反応が起こりました。

パブロフの犬を使った実験は大変有名で、「条件反射」といわれていることは皆様ご存知でしょう。これとほぼ同じような条件反射的免疫反応が視覚あるいは 聴覚からの刺激でおこったという事実は、さまざまな考えにひろがります。たとえば目や耳からの神経でおきた電気信号が免疫細胞たちにどのように情報伝達し ているのかという疑問は、まさに「樹木のレベル」ということになります。

無菌動物の抵抗力

移植医療が普及するにつれて、大学病院や専門の大病院では無菌室あるいはクリーンルームが常設されています。臓器を移植された患者さんは免疫抑制剤が投 与されることで、他人の臓器が自分のからだの中で生きながらえる(生着)ことになります。しかし免疫抑制剤が投与されるということは抵抗力が著しく低下す るということですから、さまざまな感染には大変ひ弱になってしまいます。ですから、患者さんは一時期無菌室で看病される必要があります。

ところで、動物実験にはしばしばさまざまな無菌動物が使われます。マクマスター大学にいたころに無菌ネズミを使う実験を企画して調べたところ、ネズミ一 匹が大変高価なのに驚いて実験企画を断念したことがあります。無菌室内で無菌状態の食べ物と飲み物で飼育されており、ネズミのからだのどこにも細菌がいま せん。

気道系にも細菌がおらず腸内細菌もいないのです。このような動物の血の中には抵抗力となる抗体(免疫グロブリン)が極めて少ないので、このような動物に細菌感染を起こさせると容易にからだ中が細菌だらけになる敗血症で死んでしまいます。

一方、このような動物を徐々に普通の環境の中で飼育していくと約一週間で血の中の抗体が増えてきて、抵抗力が造られたことなります。

以上のような免疫現象のたとえ話のほかにも多くの免疫現象があります。これらを解明することで、私達の健康の維持あるいは医療の改善が発展してきているわけです。前回の「からだの防御システム2」でとりあげた「天然痘ワクチン」のたとえ話もそのひとつであります。

そして、今まさに、新型インフルエンザウィルス(新型インフル)の感染予防対策は待ったなしの問題です。9月にはいり新学期開始以降のあらたな感染者の8割近くが若い年齢層であるという事実は、免疫学的に大変重要な意味をもっているように考えます。

上記した生活環境の変化や公衆衛生学的なワクチン接種に対する考え方の変化は国民一人一人の免疫反応の変容に重大な影響を与えているようにおもわれてな りません。昨今の生後の清潔過ぎる衣食住環境は子供の免疫生物学的なひ弱さを造りだしてしまったと考えてはいき過ぎでしょうか。

日頃からの無意識な異物(非自己)侵入による免疫強化は大変重要で、皮膚と消化管あるいは上述の気道粘膜という外部環境との極めて膨大な境界面は日常茶 飯に異物侵入の場なのです。出来る限り数多くの微量な異物侵入が長い時間の間にくりかえさることで、免疫バランスの強化を造りだしてくれるわけです。

新型インフルの感染予防対策として今更ながらワクチンの原材料となるウィルスをどのように効率よく増殖させるかといった基本的なことから、どたばたして いる厚生行政のあり方が問われています。国産で間に合わないから、外国で開発されたワクチンの検証を今更行っているといいます。

免疫反応のしくみを今更のように考えながら、アジュバント入りにするのかしないのか、1回投与なのか2回投与なのかなど「未だ定まらず」のごたごたです。からだの免疫反応について正しく理解することこそ、最重要なインフルエンザ対策といってもよいでしょう。

ワクチン摂取を待っていることも重要ですが、日頃の抵抗力あるいは免疫バランスの強化が問われているのです。現在は急場しのぎの状態ですから間に合いませんが、日頃から食事の吟味やサプリメントを主眼とした「食」の意義をもっと大切にする必要があると考えます。

日頃の「免疫バランス」の維持、強化とは免疫反応調整能力の強化であり、結果としていわゆる「自然治癒力」の向上ということでありましょう。

筆者の持論として、がん予防対策でも主張してきました「食-医同源」を改めて強調したく思います。これは、「医」や「クスリ」に頼るのは最終的な選択であるというものです。

とくに生活習慣にかかわる病態の改善には食の見直しとサプリメントによる補強を第一選択とすべきでしょう。そのためにも、このシリーズを充実させてみなさんがガッテンしていただけることの重要性が痛感されます。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

バックナンバー

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

・掲載22 自己とは?非自己とは?(22) 粘膜免疫系リンパ装置と病気⑥

・掲載21 自己とは?非自己とは?(21) 粘膜免疫系リンパ装置と病気⑤

・掲載20 自己とは?非自己とは?(20) 粘膜免疫系リンパ装置と病気④

・掲載19 自己とは?非自己とは?(19) 粘膜免疫系リンパ装置と病気③

・掲載18 自己とは?非自己とは?(18) 粘膜免疫系リンパ装置と病気②

・掲載17 自己とは?非自己とは?(17) 粘膜免疫系リンパ装置と病気①

・掲載16 自己とは?非自己とは?(16)

・掲載15 自己とは?非自己とは?(15)

・掲載14 自己とは?非自己とは?(14)

・掲載13 自己とは?非自己とは?(13)

・掲載12 自己とは?非自己とは?(12)

・掲載11 自己とは?非自己とは?(11)

・掲載10 自己とは?非自己とは?(10)

・掲載9 自己とは?非自己とは?(9)

・掲載8 自己とは?非自己とは?(8)

・掲載7 自己とは?非自己とは?(7)

・掲載6 自己とは?非自己とは?(6)

・掲載5 自己とは?非自己とは?(5)

・掲載4 自己とは?非自己とは?(4)

・掲載3 自己とは?非自己とは?(3)

・掲載2 自己とは?非自己とは?(2)

・掲載1 自己とは?非自己とは?(1)

病理専門医からみた健康戦略シリーズ[1]

・掲載6 からだの防御システム(6)

・掲載5 からだの防御システム(5)

・掲載4 からだの防御システム(4)

・掲載3 からだの防御システム(3)

・掲載2 からだの防御システム(2)

・掲載1 からだの防御システム(1)

病理医からみた一人ひとりのがん戦略

・掲載21 頭頚部がん(2)

・掲載20 頭頚部がん(1)

・掲載19 多発性骨髄腫(3)

・掲載18 多発性骨髄腫(2)

・掲載17 多発性骨髄腫(1)

・掲載16 おとなの進行がんの治療戦略(2)

・掲載15 おとなの進行がんの治療戦略(1)

・掲載14 子宮がん(2)子宮内膜がん

・掲載13 子宮がん(1)

・掲載12 肝細胞がんに対する予防戦略 3)ウイルス排除と抗炎症対策

・掲載11 肝細胞がんに対する予防戦略 2)肝硬変と慢性炎症

・掲載10 肝細胞がんに対する予防戦略 1)肝細胞がんのおこり方

・掲載9 前立腺がんに対する戦略

・掲載8 乳がんに対する戦略

・掲載7 肺がんの予防戦略

・掲載6 環境要因による胃がん予防

・掲載5 大腸がんに対する防衛戦略

・掲載4 生活習慣病としてのおとなのがん

・掲載3 抗生物質から抗がん剤開発へ

・掲載2 現代医学と病理学

・掲載1 はじめに

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