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ドクターから健康アドバイス

病理医からみた一人ひとりのがん戦略

掲載19

多発性骨髄腫(3)

(1)、(2)を読んでいただけますと、今回の形質細胞のがん化について理解していただけるとおもいます。詳しい説明について今回は省きますので、そのたびに参照していただけますれば幸いです。

形質細胞は免疫グロブリンという糖タンパク質を産生する細胞ですから、このがん化ということは単一の抗体機能のあるタンパク質を産生するというもので、専門的にいうと「機能性腫瘍」ということになります。つまり多量に産生されたタンパク質が血液中に増加していることで、これはいわゆる腫瘍マーカーというわけです。

前回説明しましたように、このタンパク質は二本の長鎖と二本の短鎖からなる単一の抗体機能(単クローン=monoクローン)のあるものとされています。臨床的にその名の由来から「Mタンパク」といわれることがあります。

免疫グロブリンそのものは分子量が大きいために、腎臓の糸球体というフィルターから尿の中に出て行くことはできません。ですから、血液の精密検査によって確定されることになります。

一般的な健康診断では血液検査のアルブミン(A)とグロブリン(G)の比率(A/G)から、グロブリンが増加しているということで気が付かれることがあります。このような状態のことは「高ガンマグロブリン血症」と呼ばれています。

これに似た状態は他のさまざまな病気で起こってきますから、専門的に詳しく検査をする必要があります。血中Mタンパクが増加していることと骨の変化あるいは骨髄検査で悪性化した形質細胞の顕微鏡的な確認があると確かな診断となり、治療の根拠となるわけです。

多発性骨髄腫の患者さんでは、場合によって免疫グロブリンの短鎖二本からなるベンス-ジョーンス タンパク(BJP)という奇形的なタンパク質を産生する細胞の増えることがあります。これは分子量が小さいために血液中から尿中に出てきて、蛋白尿として認められることになります。

一般的な健康診断の尿検査で尿タンパクチェックは含まれていますが、これはアルブミンという血液中のタンパク質が尿にもれ出たことの検査です。糸球体の病気を調べる検査です。ですから「高ガンマグロブリン血症」といわれて必要があるならば、尿中のBJPを精査するには専門的な医師に診ていただく必要があります。

一般的な健康診断で血液検査や尿検査結果に多少でも異常がある場合に、精査をしておく必要性がおわかりになっていただけるとおもいます。

多発性骨髄腫の初発症状として、骨の局部的な痛みや「骨の折れやすさ」があります。後者は「疲れやすい」という意味ではなく、言葉どおり「骨折しやすい」という意味です。重たくもないものを運ぼうとして二の腕が折れてしまったり、骨がひびく様に痛んだりという訴えがあります。

その様なときには適当に済ませるのではなく、整形外科あるいは内科の先生に診ていただく必要があります。精査には血液検査、尿検査、骨のX線検査が有効となります。

多発性骨髄腫は、比較的ゆっくりと進行します。経過中に時折急速に進む場合もありますので、確実に治療を続けられるように専門のお医者さんを決めておくことが大切です。血液中のMタンパクの増減は経過の重要な目印となります。現在ではさまざまによい薬、例えば最新のボルトゼミブという薬が開発されました。

以前に奇形をひきおこす薬剤として販売中止となりましたサリドマイドは催眠剤、「つわり」軽減剤として発売されました。現在では抗がん剤として脚光を浴びています。とくに多発性骨髄腫に有効といわれています。そのほかにも骨の補強剤にもよい薬剤が開発されています。

バイオブランの抗腫瘍効果が米国の研究者によって研究発表されて、NK細胞の活性化との関連性が指摘されています。現在、東欧のスロバキアの医療チームが基礎的ならびに臨床的研究を進めています。

一般的に、抗がん剤の治療効果判定には様々な難しさがあります。これには大きく分けて二つの方法があります。ひとつは、多数の病気の患者さんをあつめて、二グループに分けて抗がん剤の有無によりグループ比較するものです。

もう一つは、おのおのの患者さんに抗がん剤を投与してその効き目を正確に記録していく「症例検討研究」というものです。後者は比較的実施しやすいのですが、客観性という点から医学界では説得力の低いことが現状です。

多発性骨髄腫の治療では、骨の痛みを和らげることや病的骨折を起こさせないような経過観察、血中Mタンパクや尿中のBJPの減少をめざすことなどがあげられます。多くの場合、異常タンパクの停滞による腎臓機能の障害は直接死因にもかかわる重篤な結果となりえます。

いずれにしましても、このがんの原因として生活習慣と直接の因果関係が見出せないところが厄介の点です。予防する方法が見出せないのが現状です。放射線暴露といった激しいエピソードがない限り、発がん原因は不明といえましょう。

参考文献 国際的に評価の高いニューイングランド医学週刊誌に掲載された論文をご紹介します。Richardson PG et al: A Phase 2 study of Bortezomib in relapsed, refractory myeloma. N Eng J Med 2003;348:2609-17

次回は補遺第2編として「頭頚部がん」についてまとめたいと考えています。この中には食道がん、咽頭喉頭がん、甲状腺がん、鼻腔がんを含めます。これらの多くは生活習慣にかかわるものが多く認められるからです。脳腫瘍については省きますので、ご了承ください。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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