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病理医からみた一人ひとりのがん戦略

掲載18

多発性骨髄腫(2)

免疫細胞たちとは

免疫細胞たちは前述の白血球のファミリーです。これらはほぼ球形のひとつの細胞核をもっており、全体として単核細胞とよばれているグループです。これらはリンパ球や形質細胞そして単球と呼ばれている細胞たちで、血管の中を循環しながらからだの中をパトロールしています。

リンパ球や単球は顕微鏡で見た様子ではたいへん素朴に見える細胞たちですが、役割はひとつひとつで異なるほどに多士済々です。ひとりのヒトにはつねに血管内に約10億個存在しており、全身をめぐりながら極めてダイナミックに行動しています。

リンパ球、形質細胞ならびに単球は、血管以外では骨髄、脾臓、胸腺、リンパ節そして消化管の胃腸管全長約6メートルの粘膜上皮下層に分布しています。そしてそのほかに、のどの奥にある扁桃腺、虫垂(俗に盲腸といいますが)、小腸のパイエル板などリンパ装置に膨大な数としてみられます。血管の中と外の行き来には一定のルールがあって、それはそれはダイナミックな動きをしています。

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Tリンパ球

リンパ球はリンパ管の中から見つかった細胞たちなのでリンパ球といわれています。リンパ球たちは毛細血管からでた後、主にリンパ管の中に入ってリンパ管循環系から両側のくびの静脈に戻ってきます。リンパ球は骨髄でつくられた後、血液で運ばれて胸腺をめぐります。

胸腺の「学校」に入学を許されたリンパ球たちは、そこで「教育」をうけてTリンパ球という資格のある細胞に変わります。これらのTリンパ球たちは自分を形づくる物質に反応しないTリンパ球(非自己反応性T細胞)なので、主として外からくる非自己物質とのみ反応します。自己に反応してしまうTリンパ球が残ってしまうと自己免疫疾患になりやすくなってしまいますが、これも膨大なバランスの中で起こる現象に過ぎません。

Tリンパ球はつぎに述べるBリンパ球のはたらきを調節する重要なはたらきがあり、大きく分けると抗体を産生させるBリンパ球に協力する集団(ヘルパーTリンパ球)と妨害する集団(サプレッサーTリンパ球)があります。そして「がん免疫」に重要な細胞性免疫反応の主役を演じています。

サプレッサーTリンパ球のグループには”殺し屋”Tリンパ球集団や細胞障害性Tリンパ球集団が含まれています。これはTリンパ球以外の少数精鋭部隊の”殺し屋”(ナチュラルキラー=NK)細胞とは異なります。こうした細胞たちは私たちにかけがいのない自然治癒力を支えている細胞たちです。

Tリンパ球たちはBリンパ球を調節する以外に細胞性免疫反応の働きがあります。Tリンパ球が関わる病態の代表例は、結核菌に対する防御反応やツベルクリン反応などです。血液の中のリンパ球の約70%以上はTリンパ球ですから、これが数百億個のリンパ球の主力部隊といえます。これらのTリンパ球たちもがんになりうる危険性を持っており、悪性リンパ腫というものです。

Bリンパ球

胸腺の「学校」に向かないリンパ球たちは、研究史的にBリンパ球と呼ばれる細胞の特徴を示しています。この細胞集団の特徴は、成熟すると形質細胞という特徴的な形の細胞となり、免疫グロブリンという特別な構造(Yの字)をした蛋白質をつくります。

身近なことばでいうと抗体となりまして、抵抗力の実体です。一方でいわゆるアレルギーを引き起こす抗体です。この細胞たちが何らかのDNA障害をきたして悪性化した病気が多発性骨髄腫であり、いわゆる「無意味な」抗体をつくるので“抗体”が腫瘍マーカーとなるという不思議な現象です。

抗体タンパク、いいかえますと免疫グロブリンは規定されている遺伝子の研究からヒトでは5種類あります。以下の説明に重要ですので、少しくわしく触れていきます。5種類の免疫グロブリンはIgG,IgA,IgM,IgE,IgDとなります。IgGとIgMは生理的には抵抗力の抗体となります。

しかし、IgEは生理的にはいわゆるアレルギーをひきおこす抗体として働くことになります。IgAは、生理的には消化管や気道系などの粘膜に関係する免疫系の抗体として重要なはたらきをしています。IgDはBリンパ球の成熟していく際に細胞表面で働く抗体であり、生理的には血液中にはほとんど認められません。しかし、悪性化した場合にはIgDを産生する多発性骨髄腫も起こってしまいます。

抗体の多様性

免疫グロブリンの構造がYの字といいましたが、上の部分が開いて下の部分が結合したYの字とイメージしてみてください。ちょうどタンゴを踊っている男女がステキなポーズを作って、ミエをきっている所作でしょうか。したがって二本のポリペプチドからできているわけで、これらを二本の重い鎖と呼んでいます。

上の部分の左右の重い鎖にからまって二本の軽い鎖があります。つまり免疫グロブリンという蛋白質は二本の重鎖と二本の軽鎖から成り立っているわけです。重鎖の性質が前述の5種類の特徴をあらわします。軽鎖は、カッパーとラムダという名前の2種類しかありませんので、免疫グロブリンは簡単にいうと合計10種類しかないようにみえます。

しかし、以下に示すようにほとんど無限に近い多様性の抗体タンパクをつくることができるおかげで、無限の異物抗原に対応できるのです。そのようにして生理的な状態があって、わたしたちのからだの免疫のしくみができあがっているのです。

しかし多発性骨髄腫という病気は、無限の多様性のある抗体タンパクのうちたった一種類の“お化け”抗体しかつくらないというがんなのです。この“お化け”抗体はどのような働きがあるのかわからないことになっています。もし一種類のIgE抗体が大量に産生されたら、ひどいアレルギーになるかというと、yesでもnoでもあるのでしょう。

それでは、抗体タンパクの多様性についてもう少しくわしく説明しましょう。
Yの字の上端がいわゆる異物(抗原)と結合する部位になり、この場所は重鎖と軽鎖でちょうどポケットのような「くぼみ」をつくっています(抗原結合部位)。この「くぼみ」のかたちは、おのおのの免疫グロブリンで全て異なっており、ほぼ無限の多様性が推定されています。

これらの多様性を決めているのが「くぼみ」をかたちづくるアミノ酸配列の多様性であり、これを決める遺伝子の突然変異がそうさせています。これは「体細胞突然変異」という革命的なからだのしくみであり、リンパ球の特徴でもあります。一般的には体細胞が突然変異をしてしまうのががんのおこるしくみですから、リンパ球にはそのしくみが内在しているという不思議さがあるわけです。

このしくみを解き明かした利根川 進博士の研究はノーベル賞に値しました。無限の多様性はTリンパ球も同様のしくみをもっています。このような多様性をもった数100億個のリンパ球たち(各クローンと呼んでいます)が、分子のことばで互いに話しあってバランスをとりながらひとつのからだを統合的に維持しているのが免疫バランスに他なりません。

この多様性をつくりだせるしくみこそが、無限の異物に対して抵抗力を発揮できたり、一方でいわゆるアレルギー反応が起こったりするからだの不思議をあらわしています。Bリンパ球の抗体産生はTリンパ球の協力があってこそ成り立つのですが、最も重要なはたらきは単球にあります。

単球=マクロファージ

リンパ球のはたらきの中心には単球がいます。この細胞は血液中では少数精鋭部隊で、からだの中をパトロールしています。いざという場所で血管の外に出ていきますと、急に元気になって大型化して活躍をはじめて、マクロファージ(大食細胞)と呼ばれるようになります。この細胞をイソギンチャクのような原腸動物などでみつけた研究者が有名なメチニコフです。

この細胞たちの重要なはたらきは、異物を食べて消化して異物抗原を細胞膜に看板のように掲げます(抗原提示)。この細胞の看板(抗原)にフィットしたTリンパ球、Bリンパ球が「三人組」を組んで、クローン化します。最終的に看板(抗原)にあった抗体(免疫グロブリン)がつくられることになります。

そのようなわけで、単球=マクロファージ細胞系は免疫反応の”指揮者”といわれるゆえんです。この細胞系は、血管の中で運ばれているばかりでなく、からだの中のさまざまな場所に巣食っています。からだ中に分布するリンパ装置の中ではマクロファージは「樹状突起細胞」といわれています。皮膚では特にランゲルハンス細胞といわれています。

肝臓では特にクッパー細胞と呼ばれている細胞たちです。このようにマクロファージはからだのどこにでも分布していて、自然治癒力の引き金を引くパトロール隊長の役割を演じています。これらの細胞が強化されることは、自然治癒力の向上に欠かせません。

免疫細胞のがん化

免疫細胞たちのことがおわかりなったところで、まとめていきましょう。そうすることで、ようやく多発性骨髄腫という病気について説明する準備ができたことになります。次回をお楽しみにしてください。

このようなしくみのおかげで、皮膚あるいは消化管、気道系、尿路系、生殖器系などの異物に対する防衛システムが完備されているわけです。そのようなからだの様々な場所でリンパ球たちは様々な刺激を受けることになります。外からの進入するものとしては、皆さんもご存知の感染症があげられます。

この時戦ってくれる細胞たちだからこそ抵抗力とか自然治癒力といったりします。最近では「免疫力」といういい方をすることがありますが、やはりこの場合は「抵抗力」が最も相応しい言葉ではないかと考えます。これを高めるためにからだ全体での数百億の細胞たちの「働くハーモニー」が抵抗力だからです。

一方、このハーモニーがこわれて、ある集団のリンパ球たちの力(免疫力)が強くなっていびつなバランスとなったとき、アレルギーという過剰の免疫応答状態や自己免疫疾患になったりするのです。こうした病気は免疫バランスの過剰反応であり、「病気」というより病的生理状態といったほうがよいのではないかと考えます。これは生理的状態からの逸脱状態であって、くすりにたよらずにさまざまな方法で生理的状態に戻せるはずです。この話になりますと多発性骨髄腫の主題からずれてしまいますので、別の機会に説明しましょう。

ただこのことだけは触れておきます。空気中の花粉などのアレルゲンによって花粉症がおこったり、ダニのアレルゲンによって喘息発作がおこって本人は大変つらい思いをするのですが、これらはからだの防衛反応です。

防衛反応というしくみとして一見矛盾するようですが、発作は「からだの発する警報」にほかなりません。環境の変化に対して他のヒトより過剰に反応して、その場所から逃避するための警報が鳴っているということです。この警報は、他の人々や社会への警鐘でもあって、人類にとって大切な防衛反応であるわけです。

一方、これからの話は本当の病気となります。リンパ球たちが顔や手足の皮膚の毛細血管を通っているときには、日光を浴びるたびに紫外線の刺激を受けることになりましょう。血液の中にはごく少数の「骨髄幹細胞」も流れているといわれていますので、幹細胞もDNAの破壊される可能性のある紫外線の刺激を受けているはずです。

のどの扁桃腺や消化管のリンパ装置、虫垂ではリンパ球や骨髄幹細胞たちは食べ物の中の様々な異物の刺激を受けることになりましょう。その中のウィルスが細胞に感染する場合があるはずです。

こうした刺激により、リンパ球たちのDNAが傷つくようなことが繰り返されて発がんに関係する大事な遺伝子の部分までこわされていくと、細胞の悪性化つまりリンパ球のがんになる可能性が生じましょう。そして、場合によっては形質細胞の悪性化が起こって、多発性骨髄腫となってしまうのです。

それでは、第三話として、多発性骨髄腫そのものについて説明していきます。

続く・・・

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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