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病理医からみた一人ひとりのがん戦略

掲載16

おとなの進行がんの治療戦略(2)

抗がん剤か手術か?

進行がんの場合、もし転移先がある部分に限られていれば、わたしだったら手術を選びます。もし肝臓に転移が沢山あっても、名医を選んですべて切除してもらいたいです。

肝臓は再生力が旺盛ですから、多少大きくとられても、大丈夫です。しかし、肝臓の手術は大変むずかしい手術となりますが。それほど、現状の抗がん剤の全身投与や経口的内服での効き目は完治には程遠いのが現状です。

現在行われている抗がん剤の投与方法として、肝臓内動脈注入法があります。数時間かけて抗がん剤を肝臓全体にゆっくり注入していく方法です。なぜかがん細胞の増殖スピードの関係か、夜間に注入した方ががん細胞破壊に効果があるといったような工夫もあるようです。

また大変細い管(カテーテル)を特殊な方法で肝臓内に導入して、がん細胞の集団を潤している血管の場所にカテーテルを固定し、局所への抗がん剤注入や血管をつぶすような兵糧攻めもあります。

肺に転移している場合には、大変困惑します。肺は再生しませんし、とってしまえばそれだけ呼吸面積が減ってしまいます。場所にもよりますが、数個でしたら、がんばって胸腔に小さな穴を開けておこなう内視鏡的な肺の部分切除という方法はあります。

ところで、病理解剖学的にいいますと、がんの転移先にはある程度原則があります。直腸がんは肺に転移しやすく、そのほかの大腸がんは肝臓に転移しやすい傾向があります。

脳転移の起こりそうな場合には、予防的に放射線照射を脳にあてる方が良いのかどうか悩むところです。あるいは、ガンマナイフという最先端の放射線照射によるピンポイント治療もありうるでしょう。

がん治療のマーカーとは?

以上述べてきましたが、がんの現代医学の治療法は一般的には手術、放射線照射、抗がん剤です。早期がんであれば、手術で取りきってしまえば、ほぼ100%完治といえるでしょう。進行がんの場合、切除後でもがん細胞が残存しているか否かが死活問題です。現代医療ではここの部分は全くのブラックホールです。

がん細胞が何か特別の物質を産生、分泌してくれていれば、これを頼りに治療をすることは誰もが考えつくことです。たとえばほとんどの前立腺がんの場合、血液中のPSA(前立腺特異抗原)という物質の増加が指標となります。

また約2/3の大腸癌ではCEAという物質が血液中に高くなります。多くの末期肝臓がんではアルファ-フェトプロテインという物質が血中に高くなります。こうした物質のことを腫瘍マーカーといっています。

これらはがんが微小な時には検出以下となります。ですから、血液検査で早期がんを見つけられるという幻想は現段階ではありえなくなっていますが、末期がん治療の経過観察には多くの場合有効といえます。

こうした便利な腫瘍マーカーが、各々のがんに存在すると大変都合がよいのですが、なかなかうまくいかないのが現状です。多くの固形がんの場合は、転移したがん組織の大きさを画像や触診、痛みなどで治療効果を判定しているというレベルです。

究極の治療とは?

がん細胞のみを特異的に破壊、消滅させることが究極の治療法だといいますと、どなたも反論しないであろうと考えます。それには免疫理論を巧みに応用して、がん組織拒絶反応をひきおこさせる戦略です。

ヒトには無数の自己分子が存在します。また身近なABO型の血液型があり、これも自己認識物質です。がん細胞を非自己化させると、自己細胞たちは誤ることなく非自己細胞を排除するでしょう。これが免疫学的な拒絶反応であり、究極の治療法でしょう。

がん細胞は自分の細胞ががん化しているわけですから、多少は変化していても非自己反応を起こさせるだけおかしくはなっていないと考えられます。そこでがん細胞に非自己遺伝子を導入する遺伝子療法は考えつくことです。

あるいは癌細胞は細胞の増殖(アクセル)や増殖抑制(ブレーキ)にかかわる遺伝子がおかしくなっていますから、正常の遺伝子をがん細胞に導入するという“矯正治療”のような遺伝子療法も考えられます。こうした方法はここ10年以上にわたって試みられてきておりますが、まだまだ先の長い研究が必要です。

免疫学的な拒絶反応はきわめて厳密な現象ですから、これをいかに応用するかということを常々考えております。つまり免疫反応を担っている細胞たちのはたらきに期待するわけですが、ゆっくりとした拒絶反応をひきおこしていけるような方法を開発する必要がありましょう。妥協的な形となりますが、がんと共存する技術開発も念頭に入れておくべきでしょう。

がん細胞の非自己抗原の探索は、過去二、三十年の歴史がありますが、いくつかの特殊ながん以外腫瘍抗原として見出されていません。がん細胞の発生のことはこのシリーズで何度も説明してきています。がん細胞は自己細胞が極めて微妙に変化して、起こってきます。

がん細胞は、その後どんどん変化していきますが、非自己化させずにひとりの患者の中に居座り続けます。進行がんになればなるほど、非自己化しつつあるのではないかと推察していますが、確証はありません。ただしかし、細胞膜上の抗原物質はごくわずかな糖鎖抗原物質の変化であっても非自己となりうる事は証明されています。腫瘍抗原に関する研究開発の行き詰まりの一方で、以下のような事実が蓄積されています。

生体に対する糖鎖による免疫賦活作用については無数の研究結果が検証されています。バイオブランのアラビノキシランという糖鎖、丸山ワクチンのアラビノマンナン、牛結核菌(BCG)のアラビノガラクタン、マナテックのアラビノガラクタンなどは免疫賦活作用が証明されています。

これらは細胞性免疫を中心とする賦活作用がリンパ球のインターフェロンガンマ産生能で検証できると考えています。NK細胞の活性化もその一環として考慮されましょう。こうした免疫療法が実際効果を挙げているのかどうか大変注目すべきことです。

昨年丸山ワクチンの進行がんの治癒効果が発表されました(註)。残念ながら、二重盲検コントロールスタデイではありませんが、ステージ3,4の胃がんならびに大腸がんでも丸山ワクチンのみで各々200例ちかくの10年以上長期生存患者が報告されました。

(註)
[文献1]
岩城、飯田、永積、遠藤:丸山ワクチン(SSM)10年以上使用の進行胃癌症例の報告-2004~2005年カルテに限定-。日本医事新報 2006,No.4291,67-72.
[文献2]
岩城、飯田、永積、遠藤:丸山ワクチン(SSM)10年以上使用の進行大腸癌(III,IV期)症例の報告-2004~2005年カルテに限定-。日本医事新報2006,No.4314,63-68.

いよいよ本稿は終了の予定ですが、多発性骨髄腫についての問い合わせが多くありますので、生活習慣病のがんということではなく次回解説します。虎の門病院において、臨床免疫医として多数の経験をしましたので、それをふまえて説明いたします。

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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