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ドクターから健康アドバイス

病理医からみた一人ひとりのがん戦略

掲載13

子宮がん(1)

はじめに

子宮は女性にとって、そして人類にとってかけがいのないものであることはいうまでもありません。日本人は素晴らしい字をこれに当てました。「オフクロ」ということばのニュアンスもぴったりです。

子宮の発達は卵巣から分泌される女性ホルモンに依存しており、生殖年齢を代表しているといっても過言ではありません。閉経後に急速にはたらきが衰えていきます。しかし近年老化防止としてはやっている女性ホルモンの補充療法は当然女性らしさを維持したり、更年期障害を軽くするには役立っています。

男性にも子宮の遺残はありまして、男性ホルモンによって発育が抑制されています。よく「女性は子宮で考える」といったりします。また、いにしえのギリシャ人たちはヒステリー(ギリシャ語の子宮)ということばを考え出しました。こうした人類の来し方を考えますと、乳房とともに子宮は女性らしさの象徴といっても過言ではないはずです。

しかし、このように書いている筆者として、さしずめ現代の日本ではこうしたことばを差別用語と目くじらがたてられそうで、危機感を覚えます…。そこでさっそく本題に入りましょう。

ところで、子宮のがんには大きく分けて二種類あります。子宮頚部がんと子宮内膜がんです。日本人女性のみならず先進国では前者は罹患率も死亡率も減少傾向ですが、後者は徐々に増加傾向をしめしています。これらの傾向にはそれぞれに説明できるような要因がわかってきておりますので、のちほど詳しく説明していきます。

結論を先にいいますと、子宮頚部がんはウィルス感染とかかわり、局部の衛生状態や「性の知識」の向上がおおいにかかわっています。子宮内膜がんは、女性ホルモンに大きく依存するがんで、牛豚肉や乳製品を好む傾向や「性の解放」環境におおきくかかわっています。つまり、生活習慣の中で体内環境が知らずしらずの内に女性ホルモンの過剰な環境となっているのです。

子宮頚部がん

今回は子宮頚部がんについて説明しましょう。妊娠をしていない通常の子宮は、内部に狭いすき間のある「ナス」のような大きさ、かたちをしています。「ナスのヘタ」のある方を下にして逆立ちをしたように位置しています。

「ヘタ」の部分が、子宮でいう頚部にあたります。頚部は膣とつながり、外陰部にいたります。「ナス」のしっぽ部分には、両側の卵管という管があり、子宮をさかさにささえていることになります。内部の狭いすき間の部分が子宮内膜という子供を育てる「畑」となります。

妊娠しない場合には、月に一度のすき間の壁が月経としてはがれ落ちていきます。したがって、「畑」は女性ホルモンの周期によって、地固めされたり、耕されたりしています。

子宮内膜は「ナスのヘタ」の部分で子宮頚部とつながり、膣にいたります。したがって、子宮頚部がん発生の重要な問題は、外陰部-膣-子宮頚部という「セックス」にかかわる「女性ホルモンの環境」だということです。子宮という重要な働きをする「奥の院」を守るために、膣の環境は常在細菌(デーデルライン菌)のおかげで乳酸発酵により酸性になっています。

この細菌は、このような意味では善玉菌ということができるでしょう。この酸性状態がさまざまに外界からの攻撃を防いでくれています。しかし、ウィルスの進入や感染は完全には防衛できません。このようなデリケートな環境を清潔に保つには、局所の衛生や性の知識が大変重要になるわけです。

ヒト乳頭腫ウィルス(HPV)

日本人の多くの成人女性では、局所にヒト乳頭腫ウィルス(HPV)というウィルスが共存している状態です。「エッ、マサカ」とおもわれるかもしれません。エイズウィルスやトリインフルエンザウィルスは怖いですが、必ずしもウィルスを忌みきらう必要はありません。有史以来、人間と共存しているウィルスは驚くほど多いものです。これもそのひとつといってよいでしょう。

ウィルスは細胞の中で寄生して増えるものです。通常の免疫状態ですと局所でウィルス共存を受け入れているということは、HPVは膣や子宮頚部の上皮細胞の中に寄生しているわけです。これらのHPV寄生の上皮細胞たちは、通常はおとなしくしています。

免疫の働きは「バランス」が最重要ですので、セックスによる局所の炎症などが引き金となり、免疫のバランスの崩れや過剰反応がおこることになります。炎症が簡単におさまらず、くり返されたりすると、さまざまな白血球が集まってきます。そしてさまざまな症状をひきおこすことになります。帯下が多くなり、痛みをともなったり、腰が重くなったりします。

炎症が治らずに慢性化すると、炎症細胞である白血球は敵を攻撃するだけでなく、自分の細胞も攻撃してしまいます。つまり白血球のはたらきは化学反応のように自然現象だからです。「自分の細胞は自分の味方だ」という迷信は、ここで拭い去っておいた方がよいでしょう。

白血球の武器はきわめて強力で、活性酸素という悪玉酸素で相手を攻撃します。同時に、おおっている表面の細胞(上皮細胞)をこわしたりします。これらの上皮細胞にはHPVが寄生しており、これらの上皮細胞が再生されることになります。

慢性炎症の経過では、これがくりかえされていきます。上皮細胞が増えるとき、DNAの複製という最も無防備状態となり、これは細胞にとって最弱点の時期といえるでしょう。このとき悪玉酸素がDNAを攻撃することになります。HPVの寄生している子宮頚部の上皮細胞のDNAが徐々にこわれて、悪性化していくことになります。

ここで重要なことは、上皮細胞ががん化する過程には、HPV感染と炎症の優勢な時期から上皮細胞の悪性化の時期に移行していくことがわかっています。この経過は人それぞれですが、10年から15年ほどかかるといわれています。これはニュージーランドでの臨床研究でした。この経過は病理検査の細胞診という光学顕微鏡検査で追跡できます。

つまり子宮ガン検診でおこなうことと同じです。剥がれ落ちてくる細胞や炎症細胞を顕微鏡でしらべて、「顔つきが良い、悪い」という診断を病理専門医が行うものです。多少「顔つき」が悪くても、すぐに手術ということではなく、経過観察が重要であります。とくに25歳から30歳前半までの婦人には、経過観察が推奨されます。最近、子宮頚部がんのワクチンが実用化されつつあるという情報があります。

HPV寄生している上皮細胞が膣から子宮頚部に広がっているにもかかわらず、がん化する上皮細胞は子宮頚部に限られるということはきわめて重要な現象と考えます。筆者は、HPV寄生が発がんのイニシエーター(引き金因子)でしょうが、主にセックスにかかわる慢性炎症が発がんのプロモーター(促進因子)と提唱したいわけで、男女の仲もほどほどがよいのでしょう。

なかなか治らずお困りのご婦人には、慢性炎症を抑えるバイオブランのような健康補助食品などは推奨されましょう。これはがんの促進因子を抑える役目があるからです。アスピリンなどの抗炎症薬は副作用がありますので、あまりお勧めできません。
次回は子宮内膜がんについてお話しましょう。

<文献>
1. Melnikow J et al: Natural history of cervical squamous entraepithelial
neoplasia.: A meta-analysis. Obstet Gynecol 1998; 92: 727-735
2. Koutsky LA et al: A controlled trial of human papilloma visur type 16
vaccine. N Eng J Med 2002; 347: 1645-1651

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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