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病理専門医からみた健康戦略シリーズ[2]

掲載15

自己とは?非自己とは?(15)

全身免疫と粘膜免疫

 「免疫と炎症」という現象が「自己と非自己」を基盤とした一連の生体防御反応であるということを長々述べてきました。しかし、これらは免疫現象としての二大局面の一側面である「全身免疫系」という分野に過ぎません。残りの局面はこれからお話しする「粘膜免疫系」であり、これは自然免疫系を基盤とする広大な免疫現象の領域です。この分野を説明するには、同じくらいの多くの頁数を必要とするでしょう。しかし筆者は大胆にも数章に圧縮して説明する予定です。この分野には未だ解明されていないことが多くあり、今後の展開が大変興味深く、期待されるものです。この免疫系が実際ヒトという個体の原初の発生過程からの主役であり、その後に全身免疫系に圧倒的に影響を与えてくることが推察されています。

「粘膜免疫系」とは何かといいますと、消化管、気道系ならびに泌尿生殖器系の膣、子宮のような管構造や膀胱のような袋構造の壁を思い浮べると比較的容易にイメージが湧くでしょう。つまりこの系は粘膜における「自己と非自己」の免疫反応といえます。その粘膜での免疫反応は固体が発生していく過程で全身免疫系と密接にかかわっているのです。
以上のことについて、「全身とはどこか」「からだの中とはどこか」「からだの中の外はどこか」を理解することからはじめなければなりません。これは医学、医療で最も重要な生理学の基本を理解することに他なりません。つまりこれら三つの問いかけは生理学の基本概念にかかわることです。これらについて後に述べることにいたしましょう。

「全身とはどこか」

免疫学で言い習わされてきた「全身とは」どこかということから説明しましょう。生理学的にはからだの表面であろうと消化管であろうと表面直下の層から「体内」と規定していますので、「生理学的な全身」とはここでいう「からだ全体の体内」となります。しかし免疫学でいう「全身とは」、学問の発展段階の時期に経験された現象ならびに実験された経緯と密接にかかわっています。
免疫学の「全身」とは体表の皮膚表皮層ならびにその直下からの場を「全身」といい、そこから連続して全身に及ぶ免疫反応系を指しています。従って、皮内注射というと厚さ一ミリメートル以下の薄い表皮層内に抗原物質を注入して全身免疫反応をみるということになります。また皮下注射というと深さ1mm以上に注射針を差し込んで抗原物質を注入して全身免疫反応をみるということになります。
ここでの「全身」には、かって暗黙のうちに消化管や気道系、泌尿生殖器系が含まれていたのでしょう。しかしそのうち後三者に関する研究結果は、いわゆる「全身免疫系」とかなり異なる現象や研究結果となり、「粘膜免疫系」ということばを導入せざるを得ない状況に発展してきたのでしょう。

筆者が1980年代にトロント大学に約十ヶ月間研修出張した頃の粘膜免疫系の研究は、今からおもうと丁度その黎明期だったはずです。免疫グロブリンのIgAを中心とした液性免疫から細胞性免疫研究が緒に付いた頃でした。その後、2000年から三年間トロント近郊のマクマスター大学に客員教授で呼ばれた頃は、消化管系や気道系の免疫学はストレス学、自律神経学、内分泌学と広く連携して大いに発展していました。特に昨近、ノーベル賞の対象になった自然免疫系のブレークスルーはこの分野の研究をおおいに発展させる原動力になっています。

消化管は体内か体外か

学生講義や講演会などで、時折「体内と体外」について質問されることがあります。多くの人々は、食べ物が口の中に入ると「体内に入りました食べ物は・・・」という表現を、まったく疑問を感じずに使っているとおもいます。文学的表現としては別に問題はないのですが、生理学的には大変に誤解のある表現です。例えば「胃の中であろうと大腸のなかであろうと食べ物」は常に体外に存在しています。

ヨガの行者は、口から長さ10メートル以上の糸の端を飲み込んで、肛門から出てきた糸の端と口に残っている糸を両手で持って「ゴシゴシ」と!?これは私の講演会のときに笑いを誘う「消化管の長さと体外」の意味です。したがって消化管はからだの内部にありますが、体外としての働く場という体外空間を造っているわけです。
もうひとつの消化管のイメージは「竹輪」です。竹串の通る部分が消化管とイメージしてください。医学的にいいますと、この「竹輪」モデルは大変わかりやすいもので、消化管に相当する内壁部分は「内胚葉」といいます。外側の少しこげて風味のある皮の部分は「外胚葉」といいます。そしておいしく食べる部分は「中胚葉」といい、ここが真の「からだの中」になります。この三種類に区分けされる各葉から各々の枝葉の器官が造られてくるというイメージです。

消化管 

消化管のイメージは今までに述べたとおりです。ではそのはたらきはどうでしょうか。一言でいいますと、液体の出し入れの場といえるでしょう。出ていく液体は消化液といいまして、一日トータル9リットルにも及びます。しかしこれがそのまま肛門から出てしまえば、すぐ脱水あるいは「ミイラ」状になって死んでしまいます。しかしその99%が大腸で再吸収されて固形の産物として快便となるのです。
主な消化液としては唾液、胃液、膵液、小腸液そして大腸液があります。これらは単に食べ物を消化するだけでありません。食べ物を溶かして薄くするために大変重要です。液体状の薄まった食べ物の液体部分が体内に嵐を起こさせないように調整する場が粘膜です。消化管の内壁の細胞は上皮細胞と呼ばれており、これが消化管内に消化酵素や粘液などを外分泌します。一方、その上皮細胞は消化管側の細胞膜から消化された食べ物を適切に吸収し、細胞内で加工します。その後、体内側の上皮細胞膜から毛細血管内に内分泌しています。つまり消化管の吸収能は消化された食べ物成分の内分泌能といえましょう。

とくに小腸の上皮細胞は二つの分泌能あるいは双方向性の分泌能があるということになります。ここでいう「」と「」が生理学の本筋となるわけです。消化管はもっぱら外分泌腺であると習っている方からしますと、「ドクターエンド-もついに頭がエンドになった!」とおもわれるかもしれません。このようにおもわれる方は、勘違いの先生に習ったということになりましょう。毛細血管とは解剖生理学でいう典型的な「体内」です。そこへの分泌活動はどのような細胞であれ、内分泌能ということになります。毛細血管だけではありませんで、それに順ずる血管腔たとえば肝細胞の類洞内への分泌はすべて内分泌なのです。また大腸粘膜上皮細胞はもっぱら吸収能が優れているということは、内分泌能に優れているということに他なりません。これは逆にさまざまな食べ物の中に含まれる低分子の毒性物質の体内導入も可能性ありということに他なりません。

食事と経口投与 

以上より、口の中に入れた食べ物が直ちに体内に入るということはかなりまれなことになります。しかしいくつかの例外はあります。I型アレルギーの患者さんではごく微量の卵白、小麦、ピーナッツなどが抗原成分となります。これらは口腔粘膜から吸収されただけで、準備状態の免疫系=神経系を経て神経反射的な速さで全身症状としてアナフィラキシーを発症することになりましょう。加工した同様の物質ではより速くアレルギーが発症するかもしれません。また、狭心症発作治療薬であるニトログリセリンは分子量の小さい物質なので口腔粘膜から吸収されうるので、舌下錠としてネックレースのペンダントの様な中に入れて持ち歩いています。発作を予感したらすぐ錠剤を舌の下に溜めて、そこからのゆっくりの吸収を期待するものです。

経口投与の薬剤とは、口から入っても体内に入っていけるように工夫された薬剤のことです。つまり、このような薬物は口から入って、体内とくに血液内に確認されて、その運命が確認されなければなりません。これらは主に動物実験で確認されます。したがって、食材型のサプリメントもこのような確認データはあるべきであろうと考えます。しかし、現状では宣伝文句のみが先行しているといわざるを得ません。

次回も、粘膜免疫系について更に続けていきます。

 

プロフィール
遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)氏

浜松医科大学(第一病理)

遠藤 雄三(えんどう ゆうぞう)

昭和44年(1969年)東京大学医学部卒。虎の門病院免疫部長、病理、細菌検査部長兼任後退職。カナダ・マクマスター大学健康科学部病理・分子医学部門客員教授となる。現在、浜松医科大学第一病理非常勤講師、宮崎県都城市医療法人八日会病理顧問、看護学校顧問。免疫学・病理学・分子医学の立場からがん・炎症の研究を進め、現在に至る。

<主な研究課題> 生活習慣病予防にかかわる食物、サプリメント、生活習慣病と公衆衛生、IgA腎症と粘膜免疫とのかかわり、人体病理学、臨床免疫学、実験病理学

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