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プロバイオティクスは「微生物叢―腸―脳」の関係の調整に有用か?

これまでこのシリーズで議論してきたように、慢性疾患は世界中で罹患率、有病率ともに上昇してきましたが、残念ながらこれからも上昇を続けるでしょう。この状況の主な原因の1つは、慢性的な全身性炎症による影響です。この炎症は、腸や胃の中における私たちと細菌との共存共生関係を大規模に破壊してしまっているのです。私たちの身体は約30兆個の細胞で成り立っていますが、細菌はそのうちの4000万個を占めているのです!さらに驚くべきことに、私たちの細菌や微生物叢は、私たち自身の遺伝子の150倍も多くの遺伝子を有しているのです。したがって、多くの方が驚かれるかもしれませんが、細胞数や遺伝子情報の観点から考えると、私たちは「ヒト」というよりもむしろ「細菌」であると言えるのかもしれません。私たちは、まず最初に子宮内で母親から細菌を与えられ、その後に産道を通って産まれて最初の呼吸をするまでの間に、さらに多くの細菌を獲得します。帝王切開によって出産した場合は、自然分娩の場合よりも獲得する細菌は少ないのですが、それでも多少の細菌を獲得することができます。私たちの微生物叢は子供の時に急速に進化して、環境に大きく左右されます。例えば、母乳、食品、医薬品、特に抗生物質、そして他の環境的曝露などが大きく影響します。私たちは健康的な環境で育てられていれば、豊富で多様な微生物叢が備わり、後にアレルギー、喘息、1型糖尿病や、歳を重ねてからの心血管系疾患や2型糖尿病のような非感染症を発症することを避けられるはずです。私たちが栄養不足、または過剰な毒素や薬剤、他のストレス要因にさらされて育ってしまった場合は、結果として非伝染性疾患を発症してしまうかもしれません。

同様に、近年、腸は「第二の脳」として認識されています。なぜなら、私たちの神経伝達物質 (適切な脳機能のために重要な役割を果たすホルモン)の多くは、小腸の細胞によって産生されているからです。たとえば、セロトニンとドーパミンは、私たちの感情や正常な脳機能に欠かせない神経伝達物質ですが、脳よりも腸内ではるかに多く産生されています。したがって、腸の健康管理は、脳の健康に大きな影響を与えます。さらにこのことを追及すると、微生物叢のあらゆる変化は腸全体の状態に影響を与え、それによって脳の状態も影響を受けます。

微生物叢と腸、腸と脳の関係についての研究が進んでいることを考えると、プロバイオティクスを摂取することは、「微生物叢―腸―脳」の関係に影響を与えると考えられるのではないでしょうか?栄養補助食品市場に占めるプロバイオティクスの割合は近年拡大してきていますが、プロバイオティクスを摂取することが「微生物叢―腸―脳」の関係のバランスに影響を与えるという考えは、比較的新しいものです。プロバイオティクスの広告表示の裏付けとなる最近の研究の多くは、特定の菌種や菌株が過敏性腸症候群の関連症状や、下痢、便秘、ガス、膨満感などに効果がある可能性がある、というものです。特定のプロバイオティクス種や株が過敏性腸症候群の症状に有効な可能性がありますが、どの程度有効なのか、最も効果的な種類、菌数、菌株は何なのか、現時点では決定的な発見はありません。微生物叢についての理解はまだ限られており、その微生物叢が実際はどの程度完成されたものなのか、どのようなタイミングで発生するのか、そしてその発育に影響を与える要因は何なのか、明らかになっていません。このようなレベルの情報は、プロバイオティクスが「微生物叢-腸-脳」の関係を調節する可能性を判断するために必要です。

研究者達は、プロバイオティクスを腸の健康のために利用することにこれまで焦点を当ててきて、研究成果も増えており、少なくとも動物実験においては、感情的な反応と脳の構造機能を調節するためにプロバイオティクスを活用できることが明らかになりました。例えば、無菌マウスは正常マウスに比べて、ストレスや不安に対して大きな反応や脳化学の変化を示します。プロバイオティクスは、成体げっ歯動物の疼痛や情動行動、脳の生化学を調節するために使用されてきました。さらに、微生物叢とプロバイオティクスがどのように特定の生理学的機序を通して最終的に脳に影響を与えるのか、多くの研究が進められています。これらのメカニズムは、アミノ酸代謝物や短鎖脂肪酸、免疫システム機能、および迷走神経の活性化などの分子で構成されており、最終的に私たちの感情や感覚の認識に影響を与えます。

これらの発見によって、微生物叢が人間の行動に影響を与える可能性があり、微生物叢の構成の変化が、ヒトの脳の健康や機能において同様の役割を果たしている可能性が示唆されているのです。しかしながら、現時点ではヒトについてのデータは不十分です。それにもかかわらず、近年発表された複数の研究では、プロバイオティクスの脳や関連する情緒的疾患の治療効果に対する有効性が明らかになっています。例えば、健常な女性に対する4週間の研究では、プロバイオティクスの処方(Bifidobacterium animalis subsp LactisStreptococcus thermophilesLactobacillus bulgaricusLactococcus lactis subsp Lactis)を摂取した女性は、摂取しなかった女性に比べて、感情や感覚の中枢処理を制御する脳の部分に影響が見られました。プロバイオティクスには、乳酸菌Bの1カップあたりに1.25×1010 コロニー形成単位、S thermophilus菌とL bulgaricusの1カップあたりに1.2×109コロニー形成単位が含まれていました。他の最近の研究では、乳酸菌とビフィズス菌が、成人に対して心理的に良好な効果と血清コルチゾール(ストレスを感じると分泌されるホルモン)の低下をもたらしたことが示されました。 これらに加えて、ヒトに対するデータが現時点では極めて少なく、既存のデータでは決定的な推奨事項が得られていません。したがって、プロバイオティクスが「微生物叢―腸―脳」の関係をどの程度調節することができるのかは疑問であり、絶対的な確実性を以て回答することは、当面は難しいでしょう。一方で、それにもかかわらず、プロバイオティクスの使用が微生物叢に良好な影響を与え、理論上ではそのプロセスにおいて腸―脳の健康が改善されると考えられます。

どのような条件であってもプロバイオティクスが推薦できる、と断言することはできません。その理由は、菌の種類、すなわち、菌種および/または菌株に関連します。同様に、ビタミンD欠乏のために、ビタミンDの値が上がることを期待して葉酸は摂取しないでしょう。このように、プロバイオティクスの研究においては、どの菌株がどのような状態や症状に効果をもたらすのかを明らかにすることが期待されています。現在の科学で明らかになっていることに基づいて考えると、ある1種類の細菌が胃や脳の健康に影響を与えるからといって、他の細菌も全て同じような働きをするというわけではありません。このことは、過敏性腸の症状に関連する論文で明らかにされていますが、現時点で「微生物叢―腸―脳」の関係において研究されていることとかけ離れてしまっているわけではありません。これまで発見されていることを検討すると、このデータによって、プロバイオティクスが私たちの脳や現状認識に対して影響を与えることが、最終的に示されていると考えられるでしょう。他の全ての栄養補助食品と同様に、毎日のプロバイオティクス摂取についても、製造者が後援する研究に裏付けられた高品質の商品をお勧めします。プロバイオティクスは、低いリスクで毎日のサプリメント療法に取り入れることができるでしょう。プロバイオティクスについての研究が進み、プロバイオティクスが「微生物叢―腸―脳」の関係に持続的な効果を発揮するためには、どのくらいの量、どのような菌株を、どれくらいの期間摂取すればいいのかについて、さらなる解明が期待されます。一方、様々な穀物や野菜、果物の全体食(なるべく根っこや皮なども丸ごと食べる)、植物を中心とした食生活も、健康や微生物叢の状態に大きな影響を与えます。これらは、腸の機能を適切に保つだけでなく、脳や様々な器官システムに劇的な影響与えるのです。

プロフィール
John E. Lewis氏

マイアミ大学 Associate Professor

John E. Lewis

マイアミ大学医学部精神・行動科学科Associate Professor、同補完統合医療センターDirector of Research、医療ウェルネス学会顧問を務める。テネシー大学ビジネス学科学士(1990年)、テネシー大学運動生理学修士(1992年)、その後、マイアミ大学教育心理学博士号(1995年)を取得。

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